順天という言葉があります。順天堂大学の順天ですが、これは天の意向にならい逆らわないことで、小さな存在ながらも人間の英知や工夫を生み出すという意味です。
長年トンネル工事の様々なシ-ンをこの目で見、撮影してきたわけですが、感じるのはやはりこの順天という言葉です。トンネルを掘るということは地球を掘るということです。強大な大地のお腹に穴をあけるといういわば暴挙です。大地が怒らないはずはありません。しかも現場によりその大地の性格は様々です。比較的おだやかな方もいれば、凶暴な方もいます。また一見おだやかそうでいて時おり凶暴になる方もいます。こういった相手の性格をよく調べ知ったうえで慎重なうえにも慎重に掘り進むのがトンネル工事というわけです。
いままでご紹介した工法の他にも様々な方策(工法)があります。これから掘り進む前方が崩れやすい地山(じやま)だとわかれば先手を打って、掘り進む前方に万全の補強(先受け工法)を施します。トンネルの形に沿って前方に何本もの鉄パイプを打ち込み崩れないように支える工法がそうです。
またトンネルを支えるア-チ型の鋼鉄(鋼リング支保)が自立出来ないような軟弱な地盤の場合には支えの土台をコンクリ-トであらかじめ作り上げる必要があります。この土台を作るには本坑掘削に先行して小さなトンネルを本坑の両端に掘る(側壁導孔)必要があります。また本坑を掘る場合も一度に全部掘るのではなく上半分そして下半分と掘り進みます。因みにこれは側壁導孔先進上部半断面工法といいます。また本坑の中央に小さなトンネルを先に掘り、地山の芯抜きをしながら様子見をして掘り進むのを中央導孔先進工法などといいます。
なんだかややこしい難しそうな話ですが、要するにこれらは全て大地の意向に逆らわないための方策なのです。大地を力ずくで掘るのではなく、大地と相談しながら且つ色々と教わりながら掘り進む、これがトンネル工事ではないでしょうか。トンネル工事も重機のロボット化など機械化・無人化が唱えられて久しいのですが、結局は人の関わらない工事などは有得ず、施工に従事する方々の胸のうちにあるのは※「大地に学ぶ」という謙虚な思いではないでしょうか。 ※「大地に学ぶ」とは某ゼネコンの方がよく口にされた言葉です。
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