近頃は中高年の洋服は原宿や渋谷では探しにくくなったと周囲にこぼしたところ、銀座なら落ち着いて探せるといってくれる人があり、久しぶりにでかけてみることにしました。
高級店の建ち並ぶ昭和通りをやり過ごし、通り一つか二つ奥に入ると、カジュアルウェアブランドの店が点在している。確かに地元のお店より色も種類も豊富で、対応してくれるスタッフのちょっとした受け答えもフレンドリーで感じが良い。その時はまだ6月というのにすでに夏物はセールが始まっており、目的の白のコットンパンツを手頃な値段で手に入れることが出来た私は、銀座は高級と思い込んでいたけれど案外中高年の友かもとあっさり考えを改めました。
せっかく銀座まで来たのだから銀ブラでもと昭和通りを新橋にむかって歩きだすと、高級時計店の店先にある写真広告が目に飛び込んできました。ウン千万円のフランクミュラーという高級腕時計でした。博物館に入るかのように、お店の中のショウケースに近づいてみると、この時計、一言で腕時計というにはとてつもなく大きく、いかめしく、重そうです。これほど大きな腕時計にふさわしい太い腕を持つ人間はどんな職業の人なのだろうと想像していると、そこに何組かの外国人観光客に忙しく対応していた店員がこちらにやってきました。
店員『どのようなものを、お探しでしょうか?』
もちろん、“見学”が目的の私は恐縮するばかりです。
そして、思わず
私『Just looking!』
日本人だということはお見通しなのに、他の客が皆、外国人だったせいもあり、私としては“買いそうにもない日本人”よりは、“今日は見ているだけの( やけに平たい顔の)外国人”のふりをする方が居心地良い気がした訳です。店員はほんの少しきつねにつままれたような表情を浮かべましたが、すぐさますべてを理解したかのようににっこりと微笑むと、またするすると離れてゆきました。
さて高級時計店を後にして再び昭和通りに出ると、行き交う人がすべて中国人観光客といった様子で、これはどうしたことかと驚きました。目抜き通りに沿って、5台の大型観光バスが連なるように停車しており、中から中国人観光客が次々と降りてきます。それは永遠に続くかと思えるほどの長い列でした。そして観光客は数人ずつの塊となって大きな声で何かを言い合いながら足早に歩き、居並ぶ高級店に吸い込まれてゆきました。多分彼らはリアルな中国人なのですから、Just lookingなどと言うべくもなく、まさに高級店がお待ちかねのお客様であったと思います。
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