序章
モグラは地中にトンネルを掘り、自由自在に地面の下を移動します。
このトンネルというものは実に便利なもので、 地上であれば迂回するところを最短の距離を 目的地まで移動できる合理的な手段なのです。 人もモグラのように地中を掘り進めば障害物を排除しなくとも 目的地にたどり着き、様々な生活の便を図れるのではないか。 こういった発想から人はトンネルを掘るようになりました。
さてここで疑問が生まれます。 掘った土は何処に処理されるのか。モグラは食べてしまうのか? 掘ったトンネルは何故崩れないのか。この2つの点です。
今回の「トンネルのお話」ではこのような疑問点に触れながら、 20年間トンネル工事の記録撮影に携わった経験から、 トンネル工事の様々な方法について一般の方にも理解できるように できるだけ分かり易くご紹介しようと思います。
※ 文中の挿絵写真は本文と直接関係はありません。また著者自身が関わった工事の写真ではありません。 ※ 本文に書籍・資料文献などからの引用は一切ありません。
その1-NATM工法
冬、北海道夕張の山中で国道トンネル工事の撮影をしました。
朝一番の発破を撮るために勇んで早起きし旅館の玄関を出た途端、 撮影スタッフ全員、あまりの寒さに一瞬戦意喪失しました。 マイナス25度。目を5秒閉じると凍って開かなくなります。
トンネルの先端を切羽(きりは)と言いますが、切羽は天国のように温かくて やっと生きた心地がしました。温度計を見ると零度でした。 発破の瓦礫は150mほど飛んでくるというので200m離れて撮影。 カメラを回して、防護壁の陰に隠れます。 サイレンが鳴り終わり、静寂のあとババーンと爆発。 風圧と白煙の中、瓦礫がびゅんびゅん飛び、防護壁にゴンと当たりました。 150mなんていい加減な事を言うものです。
さて、この様な国道や鉄道など大口径のトンネルは一般に※NATM(ナトム)という工法で掘り進みます。
※New Austrian Tunneling Method
モグラの掘り進んだ穴が崩れないのと同様に、トンネルは掘った直後は自然に自立して崩れないという性質があるのです。このことを発見して30年ほど前にオ-ストリアで開発された近代的なトンネル工法です。それ以前は穴を支柱で支さえたり、レンガや石を組み上げてトンネルを作り上げていました。 NATM工法では崩れる前に抗壁にモルタルを吹き付けロックボルトを打ち込みます。 地山(じやま)が持つ自立能力を利用した画期的な工法なのです。
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